壮絶なクジラ漁を描いた絵本です。迫力のある絵は人間が備えるユーモラスな一面も伝え、絵本の世界に深みを与えていると思います。
かつて日本の今の和歌山県は紀伊国と呼ばれ、クジラ漁が盛んに行われていました。ある村に一番のクジラとりといわれた「いえもん」、そしていえもんを「おやじさん」と呼んで慕う若者の「そうだゆう」がいました。二人は一頭の大クジラを仕留めようと考えていました。
その大クジラの背中には1本の銛が立っています。以前にも浜辺に来たことのあるクジラに違いない。村人たちはそう考え、このクジラを「もりくい」と呼んでいました。もりくいは毎年のように群れを連れて来ます。でも、とても賢く、決して浜辺に近寄ろうとはしません。もりくいのせいで、村では獲物がすっかり少なくなったのです。
その年の冬も、もりくいは大勢の群れを連れてやってきました。村人たちは何十という船を並べて海に出ます。一番前を行く船にはいえもん、二番目の船にはそうだゆうが乗っています。いえもんが怒鳴ります。「よいか、もりくいだけが あいてだぞ。ほかの クジラには みむきも するな」
戦いは終わります。もりくいは、ぐったりと力尽きます。「わるかったのう、ゆるしてくれ」という、いえもんのつぶやきが胸に突き刺さります。クジラの命と引き換えに、人間は生をつないでいく。そこにある悲しみに思いを馳せ、あらためて生きる意味を考えたいと思います。
1973年に発行された作品の復刊です。「クジラむかしむかし三部作」の第2作です。(店主)
もりくいクジラ
川村たかし/文
赤羽末吉/絵
BL出版
2019年3月20日発行
定価 本体1600円+税
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