小学生のやましたくんを描いた絵本です。やましたくんは、かなり変わった子どもです。学校ではまったくおしゃべりをしません。
1年生のときから6年生になった今でも、ひとこともしゃべることはありません。しゃべらないのに、授業中はしょっちゅうふざけいます。参観日に作文を読まなければならなくなったときは、家でカセットテープレコーダーに録音して披露しました。クラスの友だちは、このとき初めてやましたくんの声を聞きました。
やましたくんも卒業のときを迎えます。卒業式で名前を呼ばれたとき、やましたくんは「はい…」と返事をしました。でも、とても小さい声だったので誰にも聞こえなかったようです。最後のページに、中学生になったやましたくんがいます。もう普通に話すようになったのでしょうか。友だちとも仲良くしているようです。
この絵本のお話は、作者の山下賢二さんの実際の体験が元になっています。山下さんは幼稚園に入ったときから、人前では話さない生活をすると決めたそうです。そして、小学校の卒業式を機に9年間に及んだ「だんまりゲーム」を自ら終わらせます。
話す能力は十分ありながら特定の場面ではまったく話せなくなってしまう状態を「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」というそうです。幼児期に見られることが多く、一定の割合で存在するようです。山下さんが場面緘黙症だったといってよいかどうかは分かりませんが、この絵本は子どもの多様性を理解するきっかけの一つになるように思います。(店主)
やましたくんはしゃべらない
山下賢二 作
中田いくみ 絵
岩崎書店
本体1600円+税
2018年11月30日発行
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