この絵本のお話は実話に基づきます。江戸時代、蝦夷地の箱館(現在の北海道・函館)から一艘の帆船が江戸に向かいます。やがて海は大シケとなり、帆はちぎれ、方向を見失った船は漂流を続けます。たどり着いた陸地は日本から遠く離れた台湾の「チョプラン」と呼ばれる場所でした。
絵本では一人の少年が登場します。少年の名前は市松。江戸に学問を学びに行くため船に乗りました。そのほか船には、船頭の文助と8人の水夫が乗っていました。市松たちを乗せてきた船は、チョプランに漂着した日の夕刻、荒れた海の大波にさらわれ、大破します。文助たちは覚悟を決めました。「ここで生きていくしかない」
チョプランの生活はきびしいものでした。水夫たちは次々と病に倒れ、残ったのは市松と文助の二人だけでした。市松はチョプランの生活にすっかり馴染んでいましたが、文助はやはり日本に帰りたいと思っていました。5年の月日が流れ、二人が帰国できる可能性が高まります。でも、市松の心は複雑です。チョプランは、市松にとって故郷といってよい場所になっていたのです。
江戸時代に文助という船頭が、この絵本に描かれたような漂流を体験し、その記録が残っているそうです。その時代、海の向こうで世界がつながっていることを体験した人は、現代の私たちに何を語ろうとしているのでしょう。同じ作者による「淀川ものがたり お船がきた日」「長崎ものがたり お船が出る日」に続く「海と船の三部作の完結作です。それぞれ迫力ある絵で世界の広がりをダイナミックに描いています。(店主)
チョプラン漂流記 お船がかえる日
小林豊 文・絵
岩波書店
本体1800円+税
2018年7月19日発行
0 件のコメント:
コメントを投稿