孤独な少年がハトを通じておじいさんと交流し、やがて自分の存在を確かめていく物語です。少年のふるさとはイタリア。「お日さまが明るくて、噴水がたくさんあって、おばあちゃんの店のバニラアイスのにおいがしていた」ところです。今、少年が住む町は、煙が立ち上り、金属のやぐらがガチャガチャ音を立て、羊のスープと石炭の粉のにおいがするところ。イギリスのどこかの町でしょうか。みんな、「ぼくの知らないことば」で話しています。少年は、自分がよそ者であることを実感します。
ふるさとを思い出させてくれるのは、お隣のエバンスさんのハトだけです。ローマのサンピエトロ広場を気取って歩くハトみたいに「クークー」鳴いています。エバンスさんは長く鉱山で働いていたおじいさん。飼っているハトをレースに出しています。エバンスさんは1羽のハトを少年の手に乗せ、「名前をつけてごらん」と話します。少年は「レ・デル・チエーロ」と名付けます。イタリア語で「空の王さま」という意味です。レ・デル・チエーロは少年のハトになりました。
レ・デル・チエーロはレースに出場し、イタリアのローマまで運ばれることになりました。1600キロメートルの長距離レースです。少年は自分のふるさとから帰るハトを待ちます。少年の「空の王さま」は無事帰ってくることができるのでしょうか。
絵を描いたのは「ローラとつくるあなたのせかい」(BL出版)で2015年ブラティス世界絵本原画展(BIB2015)グランプリを受賞したローラ・カーリンです。柔らかいタッチで深みのある絵が、みる人を絵本の世界に引き込みます。私は子どものころ、ハトを飼ってレースに出したこともあり、懐かしく思い出しながら読みました。自分のハトが北海道から帰ってきたときはとてもうれしかったなあ。(店主)
空の王さま
ニコラ・デイビス/文
ローラ・カーリン/絵
さくまゆみこ/訳
BL出版
本体1600円+税
2017年11月1日発行
2017年11月1日発行
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