この絵本の文章を書いた木原育子さんは新聞記者です。木原さんは、新聞記者の使命は「もう二度と戦争をさせない社会にすることだ」といっています。そして、これから決して戦争をしないようにするためには、「戦争の正体」を掴んでおくことが必要だともいっています。この絵本には木原さんの強い願いが込められています。
この絵本は連載企画として掲載された新聞記事がもとになっています。日本は70年以上前、アメリカを含む世界の多くの国と戦争をして負けました。木原さんはアメリカで昔の戦争について調べているグループから「ある旗の持ち主をさがしてくれませんか」と頼まれます。その旗は日章旗でした。旧日本軍の兵士となった多くの人が戦場に持っていきました。大勢の人がその兵士の無事を祈り、名前を寄せ書きした旗です。
木原さんが見せられた日章旗には「一郎くんへ」と書かれていました。名字は書いてありません。手がかりが乏しい中、木原さんは地道に取材を進め、この旗の持ち主である「一郎くん」を探し当てます。一郎くんが戦争に行ったのは1942年、20歳のときでした。そして、1943年8月20日に南太平洋のソロモン諸島のコロンバンガラ島で亡くなっています。22歳でした。木原さんは一郎くんが生きた証として、生前の写真を新聞に掲載したいと願うようになりました。一郎くんの写真が残っていないか探し始めますが、なかなか見つけることができません。
一人の人間の物語をたどることで、その人に関係する多くの人の物語も垣間見ることができます。多くの人の物語を重ねることで、その時代を描くことができるでしょう。戦争があった時代を描くことで、戦争の正体が浮かび上がるように思います。暑い夏、私たち日本人はかつての戦争に思いを馳せ、平和を強く願います。(店主)
一郎くんの写真 日章旗の持ち主をさがして(たくさんのふしぎ2019年9月号)
木原育子 文
沢野ひとし 絵
福音館書店
2019年9月1日発行
本体713円+税
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