町にただ1軒だけあったカフェの2階に、この絵本を作った画家は暮らしていました。大家のジャン・マルスさんは62歳、奥さんのシモーヌは54歳。愛犬の名前はスプリンター。
北の町の空はいつも厚い雲に覆われ、一人暮らしの画家の胸を圧迫します。やりきれなくなって海まで走ることもありますが、白金色の太陽、ニビ色(濃い灰色)の波、そして大地は無口のまま何も語ってはくれません。
日めくりカレンダーをめくっても同じような一日しかやってこない町。でも、今日は昨日ではないし、明日は今日とは違うのです。結婚式があり、お葬式もあります。子どもが産まれた家もありました。こうして世の中は少しずつ変わっていくのでしょう。でも、二人のマルスさんを見ていると、何も変わったようには映りません。
画家はフランスのノルマンディ地方のこの町に、ほぼ1年暮らしたようです。画家にとって、それは大切な時間になりました。今この絵本を通じて画家の思いを共有できることは、とても幸せなことだと思います。(店主)
マルスさんとマダムマルス
絵と文 ささめやゆき
ひだまり舎
2023年5月31日発行
定価2500円(税別)
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