赤羽末吉の生涯を詳細に描いた伝記です。数々の名作絵本を生み出し、日本の絵本文化の礎をつくったといっても過言ではない赤羽末吉。その声に耳を傾ければ、絵本をもっと身近に、もっと楽しく感じることができるようになります。
壮絶な人生であったともいえるでしょう。戦争の時代を経て、赤羽末吉は三人の子どもを失っています。「かさじぞう」(福音館書店)で絵本画家のデビューを果たしたとき、赤羽末吉は50歳になっていました。その後、「スーホの白い馬」(同)など、今でも私たちの心に響く絵本を数多くつくりました。
この本の著者は赤羽末吉の三男の妻。義父の赤羽末吉と、家族の一員として接したことになります。ただ結婚するまで、すでに著名だった赤羽末吉のことはほとんど知らなかったようです。予備知識が無かった分、また著者本来の性格も幸いしたのか、赤羽末吉に気後れすることなく接することができたようです。その結果、私たちは素のままの赤羽末吉の姿を見せてもらえることになりました。
一方で、著者は膨大な資料に当たり、赤羽末吉の姿を客観的に描きました。直接な資料がない場合は、時代背景を探る間接的な資料も用いて実像に迫ります。生々と浮かび上がる絵本画家とその家族の物語。それは一つの時代を生き抜いた人間を描く大河ドラマのように思えます。
赤羽末吉は私にとって、絵本を判断するための基準の一つになっています。この本でも紹介されている、赤羽末吉が発した「子どもたちに嘘をつかないですむ」という言葉。著者の講演を初めて聞いたときから、私の心に残っています。(店主)
絵本作家 赤羽末吉 スーホの草原にかける虹
赤羽茂乃
福音館書店
2020年4月25日発行
本体2500円+税
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